最初にこの書名を見たときに、『IQ84』(アイキュー84)かと思ったの。アルジャーノンみたいな話かと思っていたら、家人に(イチキューハチヨン)と読むんだと言われた。読んでみると、確かにI(アイ)じゃなくて1(イチ)だった。QはクエスチョンマークのQで、主人公のひとりが1984年とは微妙に違う世界に入ってしまい、「1Q84」と名づけることから物語が始まる。さて、感想をどんなふうに書こう。と、読了してから3時間ほど考えている。もし未読で読んでみるつもりがあるなら、よけいな情報を入れずに読んだほうが面白いだろう。読む気のない人に、私が何か伝えるとしたら、どの部分をどんなふうに切り取って伝えればいいだろうとも考えた。面白いからおすすめだよ、と言うには仕掛けがたくさんありすぎる。だから以下は自分のためのメモとして書くことにする。
私は村上春樹さんが好きだ。だけど、著作は全部は読んでいない。初期の三部作とノルウェイの森を出版当時に読み、アンダーグラウンドを読み、村上朝日堂を何冊か読んだ。翻訳されたフィッツジェラルドとカーヴァーを読んだ。ネットにHPがあって、読者とやりとりしている時にフォローしていた。雑誌のインタビューをいくつか読んだことがある。担当編集者とのトラブルについて書かれた文章を読んだ。先だっての授賞式のスピーチに感銘を受けた。村上さんが現実の世界に絡め取られずに距離を保とうとしている姿勢に共感し、ある時点からそれでも現実にコミットするべきだと考え始めたと書いてあるのを読んで、その時も共感した。でも、ずっと継続して追いかけているわけでもない。スピーチの全文を読んで、相変わらずだなあとは思ったけれど。
地下鉄サリン事件の被害者にインタビューしている『アンダーグラウンド』を読んで、第三者が被害者に向き合うときのぎりぎりのラインに立っていると思った。オウム信者にインタビューした本も読んだはずだけれど、そちらはあまり記憶に残っていない。そういう仕事が彼の仕事にどんなふうに影響を与えているのか、フォローせずに現在に至っている。
今度の本には明らかに現実になぞらえた事象が取り上げられている。読みやすい言葉で、俗な興味もかき立てつつ、読者の予想に沿ったり離れたりしながら、ふたつの話が同時進行する。現実と虚構がくるくると入れ替わる。わかりやすいルートに着地するわけじゃないけれど、予想を外しながら、微妙に期待をはぐらかしながら、ど真ん中に舞い降りているような気もする。物語は紙で作った月のように、キッチュな手触りを感じさせるけれど、それすらも作者の計算された目くらましなんだろうと思わせる。予想される結末を全て実行し、ハッピーエンドでバッドエンドで、その両方を実現しつつ、本当に大事なものを包むさなぎを言葉の糸で織り上げる。その中身は読んでいる人が自分で見つけなければならない。そんな手のこんだことをしなければ、語ることができないのも大変だけれど、それでも村上春樹がこんな分厚い本を書いているということは、私たちにとっては幸せなことだと思う。
出版後初の村上春樹へのインタビュー
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20090616bk02.htm
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20090617bk04.htm
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20090618bk01.htm
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